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システム開発の内製化 ~ DXの時代にSIerは生き残れるか? ~

就活ノウハウ
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 私は、大手SIerで受託開発の立場、WEB系の会社で自社サービスの開発、IT企業とは言えない事業会社で内製開発などを行ってきました。その中で、システム開発の内製化が進んでいることを強く感じています。システム開発の内製化は今後もどんどん進んでいます。そんな中、日本のIT企業の大部分を占めるSIerの立ち位置についても触れます。

NHKのシステムの内製開発の話

 ある日、下記の記事がNoteに投稿されました。

「記者に「プログラミングのスキル」って必要なの?ちなみにNHKニュースの画像生成も記者がコードを書いてます」:https://note.com/nhk_syuzai/n/n9ccbd599da50#6BtQW

上記の記事を読んだ瞬間、私自身は「素晴らしい内容」だと思いました。なぜそう思ったのか。「事業の課題をエンジニアリングで解決するという一見当たり前に思えるようなことがなされている」と感じたからです。まさに「エンジニアリングが現場に溶け込む」ということをしっかりと実現されていると感じました。こういった事例がおそらく今後どんどん出てきます。表に出ていないだけで事業会社でのシステムの内製開発は進んでいるのです。

DXの遅れの原因 ~ SIerに顧客の本質的な課題解決はできない ~

 「システムを作って、顧客の課題を解決するのだ!」ということを熱い想いを持って、SIerなどの開発ベンダーに就職することを決める学生も多いでしょう。私もその一人でした。しかし、実際には大手SIerに在籍して「受託開発側の立場では顧客の課題を解決できないのではないか?」と感じ、その会社を離れることになりました。働く環境が決して劣悪だったわけではないのです。ただ、SIerでの受託開発は顧客の課題を解決するには、致命的な構造を抱えていました。それは会社が異なることです。つまり、組織が異なることです。組織や会社が異なると、DXはズムーズに進みません。

システムを外注で作る場合、発注を行う事業会社とシステム開発を行う会社の目的は同じでしょうか。発注を行う事業会社は、そのシステムを使って何らかの課題を解決することが目的です。一方で、システム開発を行う会社はシステムを完成させることが目的です。事業会社の成功を表向きは手伝うといいながら、実態としては自分たちは事業の成功の責任を持ちません。具体的な例を出しましょう。システムの保守・運用を行う会社がいるとします。その会社は顧客のシステムの一部が古く、作り直すことで保守運用コストを下げることができ、システムの利便性があがり事業にも貢献できると考えました。ここで、システム開発の会社はシステムの作り直しを提案しますでしょうか。おそらく、提案しません。なぜなら、顧客側には古いシステムを使いつづけてもらい、高い保守運用コストを払い続けてくれたほうが良いからです。つまり、事業会社の事業に貢献しない道を選ぶことがシステムを保守する会社にはメリットになるのです。次は事業会社がリプレイスしたほうが事業としてのメリットが多いことに気がついたケースを考えましょう。この場合は、システム会社は保守運用コストを下げる必要が出てくるため、システム会社側は損をすることになります。事業会社との関係によっては、リプレイスに協力しないシステム会社もいるでしょう。このように両者が同時にメリットを享受できない関係でシステム開発を行なっているのが、日本のIT産業です。この状況を経済産業省のレポートでは下記のように表現されています。

既存産業の業界構造は、ユーザー企業は委託による「コストの削減」を、ベンダー企業は受託による「低リスク・長期安定ビジネスの享受」という一見Win-Winの関係性にも見えますが、多くの場合、両者はデジタル時代において必要な能力を獲得できず、デジタル競争の敗者となる「低位安定」の関係性となっているのが現状です。

DXレポート2.1(DXレポート2追補版)

就活イベントなど学生の前ではSIerは必ずこういうでしょう。「事業会社のパートナーとして伴走する」と。その話の多くは嘘です。そんなことは簡単にできないのです。事業会社には「事業を成長させる」という目的があり、ベンダー側には「システム開発で利益をあげる」という別の目的があるからです。目的が違えば、当然行動が変わります。それはトラブルを生む原因になりますから、ベンダーは大量の資料を作ったりして契約を明確にし、自分たちの「システム開発」の責務は果たしたと主張するのです。しかし、本質的に達成したいことはそのシステムで事業を成功に導くことであって、作ることではないはずです。上記の関係性によって、「事業の課題をエンジニアリングで解決するという当たり前のこと」が出来ておらず、日本の企業はDXが遅れてしまったと考えています。つまり、SIerにシステム開発をお願いしているような企業はDXを進めることは難しいのです。

システム開発ベンダーが悪なのか?

 上記の内容を見ると、悪いのはさもシステム開発のベンダー側にあるように見えます。私もそう考えていました。事業会社で働くまでは。実は事業会社の人間の多くは、こう考えています。

「餅は餅屋。システム開発はベンダーに任せれば良い」

そうです。事業会社側には全く当事者意識がないのです。これからDXが進み、そこから遅れればどんな企業も淘汰される可能性があるにも関わらずです。日本のDXの遅れは、システム開発ベンダー側だけの問題ではありません。事業会社の「当事者意識のなさ」と、システム開発ベンダーの「事業にコミットしないビジネスモデル」の2つにあると考えています。

※ システム開発ベンダー、すなわちSIerの事業構造はこちらでも解説していますので、詳しくない方は合わせて読んでいただくのが良いでしょう。

システム開発の内製化の加速 ~ 脱SIerとDX ~

 ではこれらを改善し、DXを進めていくにはどうすれば良いでしょうか?これはいくつか方法が考えられます。

①ベンダー側が変わること

 事業会社に寄り添って、リスクをとるビジネスモデルにするのです。一つは「リベニューシェア」のような事業の成功に伴って報酬をもらうビジネスモデルに変更することです。こうすれば、「事業を成功させる」という目的を共通化させることができ、DXは進んでいくことでしょう。しかし、システム開発ベンダーは今までのように事業会社の御用聞きを行い、開発を行うだけといった行動はとれなくなります。なぜなら、事業会社の行う事業がポンコツだった場合に自分たちは開発リソースを提供するコストだけかかり、赤字になってしまうからです。こういった状況から、システム開発ベンダーはコンサルティング機能を持ったDX専用の会社を立ち上げ、よりビジネスに近いところから参画することを狙うようになりました。これがうまく機能すれば、日本のIT産業はよくなる可能性はあるでしょう。しかし、私は下記の理由から懐疑的です。

システム開発ベンダー側がビジネスのノウハウを持って行ってしまうため、事業会社は好ましく捉えない。

 ITを使って何かサービスを作る時、ウォーターフォールで開発をすることはほぼありません。アジャイル開発を選択するケースが多いでしょう。その理由は、作って市場に出さなければ何がビジネスとして筋があるものなのか?がわからないからです。そうなってくると、サービス開発で得られた失敗なども立派なノウハウであり、事業会社で抱えるべき機密情報になり得ます。システム開発ベンダーやコンサルに依頼すると、こういったノウハウを他社に展開してしまいます。そして、何よりビジネスの領域を完全に任せてしまうことは、事業会社側にノウハウがたまらないと行った問題を起こします。よって、外部から来るシステムベンダーのDX会社の人たちを同じ目的をもった「仲間」として扱うことは難しいのです。目的を共通化できない時に何が起きるのか?それは、今までのベンダーとシステム開発会社との関係のところで述べた通りです。

競合が外資系コンサルティングファームになってくる

 システム開発会社が今まで行なってきたのは、事業会社からの要件を聞き、その通りに実装するということです。よりビジネスに近い上流に入り込んでいたのは、外資系のコンサルティングファームのコンサルタントでした。彼らも同じことを考えています。コンサルティングから参画し、システム開発につなげなければDXの支援はできないと。コンサルティングだけやっていても、アジャイル開発によるトライ&エラーが行えず、市場のフィードバックが得られないからです。よって、彼らは「システム開発会社がコンサルティング機能を自社に持たせること」とは逆に開発ができるエンジニアを雇うようになりました。つまり、今まで微妙に住み分けができていた外資系コンサルティングファームと戦うことになるのです。DXにおいて重要なのは、御用聞きのシステム開発ではありません。事業を成功させることです。はたして、優秀な人材を高額な報酬で抱える外資系コンサルティングファームに勝てるでしょうか?日本のシステム開発会社が。少なくとも私が渡り歩いてきた企業の中でよく見てきたのは、外資系コンサルティングファームの方々でした。

重要なのはシステムを作ることではない。必要なのは事業会社にできない技術やノウハウ

 システムを作るのは、ここ数年で随分と簡単になりました。やはり、クラウドの登場でインフラの構築が容易になったことが多いでしょう。結果的に内製開発を進める事業会社が増えてきました。一方で、いくら内製化が進んだとしても、すべてを自前で作ることは不可能です。機械学習を用いた高度なAIなど特定の領域に特化したテクノロジーやノウハウは容易に真似できるものではありません。また、車輪の再生産にならないようにSalesforceやAWSなどのプラットフォームとなっているものも積極的に利用していきます。よって、特殊な技術を持つベンチャーやAWSなどには積極的に事業会社としても協力関係を結んでいきます。まさにシステム開発ベンダーがよく使う共創です。では、今までのSIerのようなシステム開発ベンダーには事業会社から何を期待されるでしょうか?残念ながら、DXの文脈ではほとんどありません。なぜなら、何か特化した技術などもなく、コモディティ化したシステム開発のケイパビリティしか持たない会社が多いからです。「これくらいであれば、内製できる。」と思われてしまうようなことしか提案してこない。というのが実態です。

このようにDXを進める上で、ビジネスに対する知見もない、システム開発も下請けに丸投げするだけで技術力、アジリティもないSIerに協力を依頼する理由が事業会社から見るとないのです。これらのことから従来のSIerは今後DXが進む中ではかなり難しい立ち位置にいると言えるでしょう。

②事業会社がシステム開発の内製化を進めてしまうこと

 事業会社がエンジニアを直接雇用し、社内で開発を行わせることで、事業にエンジニアを溶け込ませることができるようになります。事業と共通の目標を持てるようになるのです。そうすることで、事業とシステム開発の一体感が生まれ、DXが加速していきます。多くの価値検証を回すことができるようになるのです。そのため、事業会社がSIerよりも高い年収でエンジニアを直接雇用するようになってきました。私もその一人で、30歳前後で1200万というかなりの高給をもらっています。事業会社がSIerに依存しないで、システム開発を進めようとしていることが伺えます。そうしないとDXの時代は生き残れないからです。加えて、AWSやGCPといったクラウドがシステム開発の難易度を大きく下げました。そういった背景も追い風に内製化の流れは今後避けて通れないでしょう。しかし、内製化もいくつか課題を抱えています。

事業会社の人たちに当事者意識が足りない

 事業会社の人たちの多くは今までシステム開発を「餅は餅屋」の考えで行なってきました。その文化は簡単に変わるものではありません。予算の取り方やスケジュールの考え方などもウォータフォールで開発を外注していた時のそのままのことが多いです。ここを変革しなければ、中にエンジニアが入っても結局は社内のエンジニアがいる出島組織と事業部門で受発注の関係が起きるだけです。それでも幾分、開発速度は上がり問題は解決されるでしょうが、本質的には何も解決できません。この文化や考え方の変革ができるか?というのが重要になってきます。NHKの投稿の何が素晴らしかったのか?まさにこの「システム開発に対して当事者意識を持たれている」という点です。本当に素晴らしいお考えだというほかありません。

業務のデジタル化を目指している担当者が、「自分はITの素人」と公言するような、奇妙な文化を作り上げてはいないでしょうか。自分がやりたいことは、まずは自分で手を動かしてみるというのは、IT化でなくても当然のことではないかと思うのです。

記者に「プログラミングのスキル」って必要なの?ちなみにNHKニュースの画像生成も記者がコードを書いてます

 私自身も多くの事業部門を社内のエンジニアとして支援してきましたが、うまくいくプロジェクトというのはこのような高い当事者意識を持った人が事業側にいるケースです。NHKの投稿では事業側の方がエンジニアの領域に踏み込んでいますが、逆も必要なのです。エンジニアが事業を理解し、当事者意識を持つということ。この「事業側の人間とエンジニアの双方が事業の成功にコミットする」という状況が作れなければ、内製をしても上手くいきません。

システムの保守運用の継続体制の確保の問題

 事業会社は既存の人材をエンジニアとして育てるというのは難しいでしょう。NHKの記事を投稿をされた三輪誠司さんのような人材は非常に稀だと感じています。そうなると、エンジニアを外部から採用するでしょう。これは転職をした人であれば、共感していただけるかもしれませんが、転職は一度目は怖いですが、それ以降は何の躊躇もせずに転職できるようになります。よって、外部から採用したエンジニアはさらなるスキルアップ、エンジニア文化が醸成されておらずスキルアップが見込めないなどさまざまな理由で辞めていってしまう可能性があります。一方でシステムは人が辞めても継続して動かしていく必要があります。この人が辞めてもシステムの保守運用が継続できる環境を作るということに関しては、事業会社はシステム開発ベンダーに丸投げしていたのです。しかし、内製するとなると、作ったシステムを属人化させずエンハンスしていく方法を考えないといけません。

SIer内部でモヤモヤしている人へ

SIerの中には、コードを書きたくてモヤモヤしている人や業界の将来性に不安を感じている人もいるでしょう。私はコーディングなど手を動かすことをしたくて転職しました。そして、内製化の流れがやってきたことで1000万を超える高い年収を得ることができるようになりました。同じように手を動かしたい人はすぐに転職エージェントに登録し、自らの置かれている立場を把握することをお勧めします。年齢によっては、外に出ずSIerに残る判断をしたほうが良いでしょう。また、別に手を動かすことをしたいわけではないが、内製化の流れに不安を感じる人もいるでしょう。内製化の流れの中で必要になるエンジニアは手を動かす人材だけではありません。SIerでマネジメントをしていた人材も必要とされています。そのため、一度転職エージェントに登録してみることをお勧めします。おそらく多くのSIer勤務者が内製化を進めている企業の年収が自社の年収を超えていることを知り、驚くことになるでしょう(年収1000万を超える求人が普通にあります)。転職エージェントに登録することには何のリスクもありません。むしろ、自らの市場価値を把握できていないことが大きなリスクとなります。そして、自社以外の状況を知らないことで、より高い年収を狙える場所があるにも関わらず行動できず、機会損失を起こしてしまいます。定期的に転職エージェントに情報をもらい、自らの置かれている立場を把握し、SIerに残って業務を続けるか、外に出て業務を続けるのか進退を決めるのが重要です。おすすめの転職エージェントは下記で紹介しています。

転職エージェント比較

まとめ

 DXという言葉はとにかく頻繁に聞くようになりました。しかし、その多くが「ただシステムを作っただけの案件」をDX事例として使っているように思えるのです。特にシステム開発ベンダーの売り文句のように使われているように見えます。しかし、実際に事業会社でエンジニアをやるとわかるのですが、「ただシステムやサービスを作れば良い」といったそんな単純な問題ではないのです。全員が当事者意識を持つとか、会社や組織の構造とか、開発以外のところにも多くの問題が見えます。DXを進めるには、「エンジニアリングがいかに事業に溶け込むか?」ということを考えなくてはなりません。

 何より新しい技術を入れることや既存業務のシステム化が目的なのではなく、「事業を成功に近づけること」がDXです。そう考えると、「自分たちの事業を成功させるための取り組みを外注する」なんてことはありえないでしょう。課題はあれど必然的に「システム開発の内製化」は避けて通れないと私は考えています。今後も多くの企業が「内製化」を決断するはずです。そして、私のように事業会社に属するエンジニアも今後増えていくでしょう。その結果、SIerの既存のビジネスモデルはどんどんと苦しくなるでしょう。

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